マスカケ線に願いを

 以前、ユズは私がタイプだったから気になったって言っていたけど、写真の『こまち』さんは、どう見ても私とは正反対の人だった。
 真っ黒な黒髪に、色白の肌。こんなに穏やかそうな、優しそうな笑顔は、私には作れない。大人しそう、という形容詞がぴったりな感じだ。
 気の強さがまったく隠せてない私の顔。地毛は茶色がかっている。大和撫子といった雰囲気の彼女とは、やっぱり正反対。

 写真の中でも、いくら周りがはっちゃけていても、彼女は穏やかに笑っているだけだ。

 私はそっとアルバムを閉じて、掃除を再開した。
 ユズの過去にまで嫉妬していたら、きりがない。私に男がいたように、ユズにだって女がいたことがあるだろう。

 だけど予感といってもいいかもしれない、なぜか、この『こまち』さんのことが気になった。



「ただいま」
「おかえりなさい」

 ユズが帰ってきて、私はそれを笑顔で出迎えた。掃除は全部終わっていたし、夕食の準備も終わっていた。

「うわ、すっごい片付いてる」

 リビングに入ったユズが目を見張った。ユズのスーツを受け取って、ハンガーにかける。

「うん」
「ありがとな」

 ユズは私の頭をなでる。

「今日は、回鍋肉だよ」
「おっ、まじか」

 時々思うのは、私はユズを胃袋でつかんでいる気がするってことだ。

「ユズ、食べ物に釣られてなんかないよね?」
「うん? そんなことより、早く食べたい」

 にっこり子供みたいに言うユズに、私は苦笑した。

「やっぱり胃袋ね」

 笑いながら食事の用意をする私を、ユズが何も言わずに手伝ってくれる。
< 152 / 261 >

この作品をシェア

pagetop