マスカケ線に願いを


 不安いっぱいのまま、それを押し隠して午後の仕事を終えると、私はメールに気づいた。

『杏奈、悪い。急に用事が入ったから、一人で帰ってくれないか?』

 ほとんど当たり前のように一緒に帰っていた私達。
 私は重なる不安を必死に押し込めて、帰宅の準備をした。


 ねえ、マスカケ線。

 私はいったい何に怯えているのかな?
 ユズは私から離れていかないって、信じているはずなのに、心のどこかで疑っているのかな?
 ねえ、教えて。
 この不安はどうやったら、消えるの……?



「何見てるの?」
「うん?」

 休日だというのに、部屋でユズは難しい顔で資料とにらめっこしていた。

「うん、離婚調停のやつなんだけどな……」
「離婚?」

 ユズが私の頭をなでる。本当は駄目なのかもしれないけど、私は資料を覗き込んだ。そこには、大沢小町という名前が書かれてあった。

「小町……」
「ん?」

 思わず声が出てしまい、はっとする。

「いや、典型的な大和撫子の名前だと思って」

 私の言葉に、ユズが資料を置いてソファに座る。そして、私を手招きした。私はユズの隣に腰掛けた。
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