マスカケ線に願いを

「おいおい、お前らだけで盛り上がってんなよ」

 他の男が私達に加わってきた。
 今の私達の会話のどこが、盛り上がっているように見えたのか。
 沙理菜が心配そうに私を横目で見て、笑顔、と口ぱくをした。
 不本意ながら、私は作り笑いを浮かべた。

 こんなとき、自分の理性が嫌いになる。
 本当は我慢なんかしないで席を立てばいいのに、沙理菜のためと思うとそれができない。
 なにより、いやいやながらも合コンに参加することを承諾したのだから、それをきちんと終わらせたいと思ってしまう。
 頼まれたからには、ちゃんとやらないと気がすまないから。


 楽しくもない会話に調子を合わせ、適当に相槌を打つ。

「杏奈さんは、しっかりしてる感じだよね」
「よく言われます」

 しばらく後、男が突然そんなことを言い出した。

「しっかりしてる女の人って素敵だよね」

 うんざりしていたところに、そんな心にもないことを言われ、いらっとする。

「そうですか? 男の人は、自分がしっかりしてたいって思うものでしょう? しっかりした女なんて、邪険に扱われるだけですよ」
「はは、そんなことはないだろう」

 口では否定しながらも、男の目は泳いでる。私の言葉は図星をついたようだ。
 何が悲しくて、こんな小者を相手にしなくてはいけないのだろうか。

 私が求める何かを持っている男は、少ない。

 理想が高いのとは少し違う。
 私を包み込めるだけの包容力を持つ男が少ないだけ。


< 16 / 261 >

この作品をシェア

pagetop