マスカケ線に願いを



「それじゃあ、おやすみ」

 車を降りてわざわざマンションの入り口まで送ってくれたユズだけど、私はそっとその手を握った。

「ん、どうした?」
「あ、いや……」

 最近ずっと一緒にいるせいで、少しでも離れるのが寂しくなっている。
 ユズと一緒にいたいと、離れたくないと、心が叫んでいるのがわかる。

「杏奈?」
「え、うん……ユズと離れたくないなって、思っちゃって……」

 ユズは私の頭をなでる。そして私の耳元に口を寄せると、

「俺も」

 そう、低くて甘い声で囁く。

「……ごめんね、わがまま言っちゃって」
「……なあ、泊まってってもいい?」
「え?」

 ユズの言葉に、私は顔を跳ね上げた。

「やっぱ、一緒にいたい」
「……うん」

 私がうなずくと、ユズは荷物を取りに車に戻った。

「それじゃあ、行くか」
「うん」

 私達は並んで私の部屋に向かった。


 私は気づいていた。
 私の心がどんどんユズに依存していっているのを。
 気づいていたけれど、止められなかった。
 この心地よい空間から、抜け出したくなかったから。


 ねえ、私のマスカケ線。

 私の幸せは、ここにあると信じてもいい?
 この心地よい時間が、私の手でつかんだものだと、信じてもいい?

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