マスカケ線に願いを
それは、拒絶。
心が凍りついた私の、拒絶。
甘ぬるい日々にのめりこんで、忘れていた。
私はマスカケ女。
一人で何でも出来る、意志のしっかりした女。
自分の足で歩ける、そういう人間。
「杏奈」
通りかかったユズに名前を呼ばれても、私は普通の態度を返すことが出来た。
「なんです?」
「話がある」
ユズは焦ったような表情で、私を見ていた。私は時計を見て、苦笑する。
「蓬弁護士、お話はお昼休みでもいいですか?」
「……ああ」
メールをすれば済むのに、ユズはわざわざ二階に寄ったらしい。私と言葉を交わした後、ユズは三階へと戻っていった。
そして昼休みとなり屋上に向かうと、ユズが待っていた。
「杏奈、噂のことなんだが」
「噂じゃなくて、事実だよね?」
私の言葉に、ユズははっと息を呑んだ。
「女の人と一緒にいたのは事実なんだから、噂じゃないでしょ」
「杏奈……」
言葉はきついかもしれないけど、私の声のトーンは普段と変わらなかった。
「私、見たよ。ユズが一緒に帰れないって言った日、ユズが女の人と食事してたの。それならそうって言ってくれればよかったのに」
「杏奈、ごめん。俺が一緒にいたのは由華ちゃんなんだ」
由華、といわれてとっさに誰か分からなかった。そんな当惑が顔に出たのか、ユズがそっとため息をつく。