マスカケ線に願いを

「それに、私のために訴訟を起こしかねませんから」
「……杏奈ちゃん」

 話しながら時折手が止まったけれど、出社時間になる頃に私は荷物をまとめ終わった。

「それじゃあ、これで」

 私が荷物を持って立ち上がろうとしたとき、太田さん達が連れ立ってフロアに顔を出した。
 そして私を見て、馬鹿にしたような笑いを浮かべる。

「噂、本当だったのね」
「仕事でミスするなんて、大河原さんらしくないんじゃない?」
「でも、仕事やめなくちゃいけなくなるほどのミスなんて、やろうと思ってもできないわよ」

 言いたいように言わせればいい。私はもう、こんな人達と関係なくなるんだから。

「今までお世話になりました」

 ぺこりと頭を下げて、その場を去ろうとした私を引き止めたのは、次に続く小夜さんの言葉だった。

「貴女達、今すぐ杏奈ちゃんに謝りなさいっ」
「小夜さんっ?」
「小夜?」

 小夜さんの剣幕に、太田さん達の腰が引ける。

「杏奈ちゃんがなんで事務所やめる羽目になったのかわかってるの?この事務所のためなんだよ! 貴女達に、同じことができるわけ?!」
「ちょ、小夜さん、もう良いですから」
「良くないわよ! ふざけんじゃないわよっ、あることないことばっかり話して、それでも法律事務所の職員なの?」

 あまりの小夜さんの勢いに、私も唖然とする。
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