マスカケ線に願いを

「どうしたの? 様子が変だよ」
「え、えっと……ユズに……」
「蓬弁護士に?」
「親に会ってくれないかって言われたんですよ」

 階段を上っていた小夜さんの足が、止まった。

「それって、結婚の準備?」
「っ!」

 私の顔が赤く染まったのに、自分でも気づいた。

「や、やっぱりそうなんでしょうか……」
「わ、真っ赤になっちゃって、杏奈ちゃん可愛い!」

 散々、真っ赤になった小夜さんを可愛いと思ったツケが回ってきた気がした。

「だって、その指輪は婚約指輪なんじゃないの? 噂になってるよ」
「え」

 はっとして見たのは私の左手の指輪。

「良いなあ。杏奈ちゃんに先越されちゃいそう」
「でも、そうと決まったわけでもないですし、これは婚約指輪では……」
「え、違うの? 蓬弁護士もつけてるって、噂では」

 確かにユズもおそろいの指輪をつけているけど、もらったときに言われたのはずっと一緒にいて欲しいというだけだった。

「ユズの口から結婚のことがでたことはないです」
「へえ? でも、蓬弁護士はやっぱり考えてるんじゃないかしら」
「俺が何を?」
「きゃ」

 背後から突然ユズがのっそり顔を出して、私は危うく階段から落ちそうになった。それをユズに支えられる。

「おっと、危ない」
「お、驚かさないでよ」
「悪い悪い」

 私はそっと胸を押さえてため息をついた。そこに小夜さんが興味津々な様子でユズの顔を覗き込む。
< 253 / 261 >

この作品をシェア

pagetop