マスカケ線に願いを
「本当に?」
「ゆっ……柚紀さんには、いつもお世話になっていますっ」
自分でも声が裏返っているのがわかって、恥ずかしくなる。そこにユズが苦笑して入った。
「あのな、杏奈。もっと肩の力抜けって」
「だ、だって、凄く緊張するんだもん……!」
私は小声でユズに抗議した。今まで生きてきた中でここまで緊張したことはないかもしれないというほど緊張していた。
そんな私を見かねたのか、お母様が優しく微笑みかけた。
「杏奈さん、そんなに緊張なさらなくて良いのよ。私、息子の嫁になる方とは仲良くしていたいと思っていたの」
「気が早いぞ、お袋」
「あら、ごめんなさい。でも、孫の顔を見るのが楽しみなんですもの」
そんなことを本当に楽しみにしているように言うので、私は少し肩の力を抜いた。
「杏奈はまだ若いから、結婚とかは……」
「あら、おいくつなの?」
「二十三です」
私が年齢を言うと、お母様は驚いたように目を見張った。
「随分落ち着いていらっしゃるのね。その年齢だったら、まだ浮ついている方も多いでしょうに」
「いえ……」
「私みたいな年寄りの言うことはお気になさらないでくださいね」
年寄りだなんて、彼女のことをそう呼ぶ人はいないだろう。
「杏奈は本当にしっかりしてるんだよ。だから好きになったんだ」
「ゆずは落ち着きがないから、そういう方との方がうまくいくでしょうね」
ユズに落ち着きがない?
「おいおい、お袋。落ち着きがないっていつの話だよ」
「あら、小学校の先生によく言われてたじゃない。蓬君は落ち着きがありませんって」
「そうなの?」
私がユズを見ると、ユズは顔をしかめて真っ赤になっていた。