マスカケ線に願いを
私は三階に上がって、ちょっとフロアをのぞいた。
司法書士である私がこの階に足を運ぶことは滅多にない。だからこの慣れない雰囲気に、フロアに入るのを躊躇う。
しかしその躊躇いは一瞬で、茶封筒を握り締めた私は三階の受付に足を運んだ。
この法律事務所には受付が三箇所ある。一つは一階ロビーに、もう一つは二階、もう一つは三階だ。
ロビーでは依頼人の相談内容に応じて、司法書士か弁護士の仕事かを判断し、二階か三階のどちらへ行けばいいか教えてくれる。
二階、三階の各受付では、ちょうど手の空いている司法書士もしくは弁護士を紹介するという仕組みだ。
受付同士で統率が取れているし、たらいまわしということも、必要以上に待たせるということもない。
居心地も良いし、私はこの法律事務所が好きだった。
依頼人もなく、そろそろ終業時間だというのに、受付嬢はきちんと姿勢を正して座っていた。
「あの、司法書士の大河原ですが、久島弁護士はどちらに?」
「何の御用でしょうか?」
受付嬢はにっこり笑って、用件を訊ねてくる。私は彼女に茶封筒を見せた。
「この書類をお渡ししたくて」
「それなら、こちらで預かりましょうか?」
「いえ、手が空いているので、私が持っていきます」
疲れているであろう彼女の手を煩わせるのは気が引けたし、頼まれた仕事は自分の手で終わらせたかった。