マスカケ線に願いを
「俺は久島幸樹(ひさじまこうき)。こっちは蓬柚紀(よもぎゆずき)だ」
「大河原です」
名乗りながら、私は失礼にならない程度に二人を観察した。二人ともなかなかの容姿で、女の人が放っておかないだろうな、と他人事のように考える。
「はい、これ大河原さんの分」
久島弁護士がコーヒーを差し出した。
「あ、ありがとうございます」
戸惑いながらも、それを受け取る。久島弁護士は随分社交的なようで、口元に笑みを浮かべながら訊いてきた。
「大河原さんは、司法書士なんだ?」
「はい」
訊かれたことには答える。だけど、私から話しかけることはしなかった。というよりも、初対面の人との話題が思い浮かばなかったのだ。
「この事務所に来て長いの?」
「そろそろ一年になります」
蓬弁護士が引きとめたわりに、久島弁護士がよく喋る。
蓬弁護士の方といえば、コーヒーを飲みながら、私達を見ていた。その顔には笑顔が浮かんでいる。
ふと、蓬弁護士が口を開いた。
「大河原さんは、気が強そうだよな」
「え」
思いがけない言葉に呆けた声を出した私は、思わず蓬弁護士を見た。久島弁護士が呆れたように、ため息をつく。