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「あ、王子、紹介するね。この子は佐川みあ。あたしの友達。そんでみあ、こっちは氷田陣君」

 私の動揺に気づいているであろうひゅかは、何事もないように紹介をした。
 氷田君が、私を見た。

「はじめまして。隣いい?」

 氷田君の瞳に私が映って、そして微笑が私に向けられる。
 私はぎくしゃくと肯いた。了承を得た氷田君が私の隣に座る。
 そして彼は、私に話しかけてきた。

「みあ、って変わった名前だね。なんか猫みたい」

 氷田君が、私に笑いかけている。
 どきん、とことさら跳ねた心臓に、気づかれないかな?

 落ち着け、自分。
 不自然に思われちゃ駄目だ。
 なにか、言わなくちゃ。

 呪文のように、自分に言い聞かせるうち、落ち着いてきた。
 私はやっとの思いで彼に微笑みかけた。

「良く言われるよ、猫みたいだって」
「俺、猫好きなの」
「本当? 私は猫で遊ぶのが好き」
「はは、ちょっとそれ、なんか可哀想」

 あれだけ夢見た、彼の瞳に、私が映っている。
 桜の木に微笑みかけていた、あの彼。
 その彼が、私に微笑みかけている。
 こうして、会話している。

 それはまるで夢のようで、現実感が伴わない。
 気のせいのような、浮遊感。
 浮かれたような、微熱。

 だけどそれと反対に働く抑制力。
 普通を装うために増していく冷静さ。
 私の臆病さが、私の心を引き止める。

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