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「……まだ、忘れてないんだ……」

 自分がふがいなくて、情けなくなる。
 心の奥底にしまい込んだと思っても、時折浮かんでくる嫌な記憶。

〝忘れたいのに……〟

 思い出すたびに、泣いてしまう。
 最悪な、失恋の記憶。

『お前が、俺に依存してるだけだろ』

 彼は、私が高校のときに知り合った、ちょっと年上の男の人。
 知り合いの紹介がきっかけで、なんとなく仲良くなった人。
 ことあるたびに、一緒にいて、好きになった人。
 でも年下の私のことなど、なんとも思っていないことには気づいていたから、こうして一緒にいられればいいやと思っていた。

 だけど、彼は思わせぶりだった。
 私が他の男の人と話していると、あからさまにやきもちをやいた。
 いつも女の人の話をして、私の気を引こうとした。
 彼の親友が言うには、彼は私のことが好きだということらしい。
 そんな感じで、いつも一緒にいた私達は、周囲の人からは恋人同士だと思われていた。
 彼はそれを否定しなかった。
 外を出歩くとき、彼は照れたように私の手を握ってきた。


 そんな関係を半年以上続けたあとの、バレンタイン。
 彼は私を抱きしめた。

 やりたい。

 私は驚いた。
 だけど、かろうじてそれを断った。
 私は、彼の彼女ではないのだから。
 彼は名残惜しそうだったが、それ以上は求めてこなかった。

 そのたった一ヵ月後、彼は、私の前からいなくなった。
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