急性大好き症候群
「麻尋ちゃんも大岩田目指してんの?」

「いや、一個下のとこ。俺も実力相応だったらそこだったけど、どうしても大岩田行きたくて」

「なんで? うち、そこまでして目指すようなとこかな」


麻尋ちゃんとは離れちゃうのか。


遠距離じゃん。


心の奥で密かに嬉しい自分がいることは……気のせいにしておく。


「弘樹も受けるし」

「ああ、そうだった。同じ高校って姉としては複雑だけど。彼女よりも友達優先?」

「そうじゃなくて、弘樹に負けるのが嫌なの」


聞けば、二人は常に何かと争っているらしい。


テストの点数、部活のレギュラーの座、喧嘩、その他諸々(部活に関しては弘樹はサッカー部だったから、どっちが先にレギュラーになれるかを争っていたらしい)。


「男の意地ってやつか」

「そういうこと。弘樹より偏差値の低いとこで麻尋と一緒にいても、勝った気がしない」


太一は弘樹が麻尋ちゃんを好きなことを知っているのだ。


今のところ麻尋ちゃんに関しては太一が勝っているけど、それが永遠に続くことはないことを太一は知っているのだろう。  


「でもさ、弘樹も判定は太一とどっこいどっこいだったよ」

「これからだよ。弘樹は最後に追い込むから」

「じゃあ、太一は余計数学克服しないとね」

「わかってる。弘樹は全教科まんべんなく取れるから、俺が劣勢なのは理解してる」

「お互い、受からなきゃ意味ないしね」


食べ終わった手を向かい側の太一の頭を撫でた。


さらさらした髪の毛が手に当たって気持ち良かった。


「なに?」


目をぱちぱちさせてあたしを見る太一はやっぱり幼く見えた。


「お互い頑張って欲しいなって」

「唯織は弘樹寄りじゃないの?」

「そんなことないよ。太一の専属家庭教師だし」


なんとなくおかしくて太一に笑いかけたら、太一はそれから俯いて黙ってご飯をかきこんでいた。


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