急性大好き症候群
それでもケーキを頬張る二人はやっぱり幼い。


レアチーズケーキとチョコレートタルトというチョイスも可愛い。


あたしは紅茶を飲みながら、太一の頬張る姿を見て頬を綻ばせていた。


「でも、俺が合格できたのは唯織のおかげだってマジで思ってる」

「何、急に」

「唯織には感謝してます」


このタイミングで頭を下げられると、なんだか照れる。


隣の弘樹は黙々とレアチーズケーキに立ち向かっている。


「まあ……あたしができることなら、また協力するよ」


恥ずかしくなって、太一から視線を外してミルフィーユを頬張る。


バターの風味とカスタードクリームの甘味が絶妙なのだ。


「なあ、太一」

「ん?」

「まさかとは思うけど、姉ちゃんに手出したり、してないよな」

「してないよ。悪いけど俺、年上は好みじゃねえ」

「よかった。太一が浮気とかしてたら、麻尋に会わせる顔がねえ」

「なんだよそれ。弘樹は関係ないじゃん」

「姉ちゃんはどうでもいいけど、太一に何かあったら俺、死にたいもん」

「心配性?」

「そうかも」


あたしはそんな二人の会話を俯きながら黙って聞いていた。


太一は覚えていない。あの夏祭りの夜のことを。


酒が入っていたから記憶がないのは当然だし、覚えられていたところで困るのが現実だ。


それでも、すこしくらい覚えてて欲しかった……なんて思うのは、あたしのただの我が儘で。


好きなのだと自覚せざるを得なかった。



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