急性大好き症候群
「た、太一……」


あたしの額、瞼、頬、首筋、鎖骨へと太一の唇が降ってきて、再び太一があたしを見下ろす。


「目が潤んでる」


太一の指があたしの目元に触れる。反射的に目をつぶってしまう。


その隙に、服の中に太一の手が入ってきた。


太一の指が体に触れて、思わず声をあげてしまう。


「……拒めよ」

「え?」


太一がため息をついてあたしの上から除けて、ベッドに移動する。


「俺なんか拒めよ……」

「……太一?」


体を起こすと、太一はあたしに背を向けてベッドに寝転がっていた。


その時、あたしの頭の中が真っ白になった。


真っ白い世界の中で、あたしを見下ろす裕也。


……え?


「ごめん、今日は帰って」


家の主に言われてしまったら、帰るしかない。


「……うん」


あたしは太一の声を聞きながら、真っ白な世界に頭を押さえていた。


頭痛がしてくる。目の奥で何かが動いている。目眩がする。


目をつぶってしばらくじっとしていると、太一がこちらを振り返ったらしい。


「唯織? どうかした?」


その声に慌てて腰を上げる。目を開けて立ち上がると、世界がかすかに揺れたけど、よろけはしなかった。


「ごめん。もう、帰るから」

「どうかした?」


ベッドから体を起こして、心配そうに見てくる太一の顔が、目の奥でチカチカしているものでうまく見れない。あたしは急いで太一の部屋を出た。


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