絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
「仕事だ」
「えー……ずっと休みないじゃん」
「何かしたいことがあるのか?」
 そう聞かれると、ちょっと困る。既に過ぎた誕生日のパーティとか、したくないわけではないが、自分から言い出すのも気が引けるし、プレゼントをおねだりしているみたいだし。
「ないけど、ないけどぉ……」
「ジムに行きたいなら連れてってやってもいいぞ」
「…………ジム?」
 香月は巽に触れている手の動きを止めた。偶然だろうか、話がおかしい。
「東都ホテルのジムくらいが丁度いいか? お前では貯蓄で入会金を払らわねばならんだろうがな」
「そ、そんな高いの?」
 これで返答は合っているのかどうか考えに考え抜く。
「知らないか? 有名だぞ。200万はくだらない」
「へー……」
 なんか、違う。何かが、違う。
 怖くて、首に回した腕に力を込める。
「な、何でジム? ……いつも行ってるの?」
「会員証はあるがな。行く暇がない」
「だ……だよねー。だって、家に帰って来られないくらい忙しいんだものねー」
「暇なお前とは対照的にな」
 減らず口め、と唇をグッとおしつける。
「愛想のないキスもいいが、先に着替えて来る」
「えー、いいじゃんこのままで……。お風呂入る? まだ寝ないの?」
「いや、腹が減った。まだ食ってない」
「……夜食?」
「晩飯だ」
「えっ……、今から食べに行くの?」
「どこに? ……飯くらい作れるだろ?」
「えっ」
 一時停止した。一人ではまともな料理が作れない。
「着替えて2件ほど電話してから飯にする」
 巽は太ももに乗った香月を横にずらすと、立ち上がり、バックを片手に自室へ入っていった。
「……ごはん……?」
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