絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 そう決心していたのに、
「おい、起きろ」
 まさか、ほんとに今7時!?
「おい…遅刻するぞ」
「……なんじぃ?」
「7時だ」
「無理だよ……行けない。体だるい……眠い……」
「だらしがないな」
「……」
 なんとでも言え!
「……熱が出たって電話する、多分ほんとに熱あるよ。体だるいし、関節痛がするし、眠いし」
「……」
 巽はいつものことながらタフだ。よくもまあ、シャワーを浴びてベッドに入ったのが午前6時だったにも関わらず、一時間で目が覚めたな。
「寝よ……あなた、仕事まだでしょ…?」
「……」
 巽は無言でもう一度ベッドに入りなおして、腕枕をしてくれる。
「ねよ、ねよ♪」
 だからってそうか、会社に電話しなきゃならなかったんだ!
 次に目が覚めた時には午前11時を回っていた! 最悪じゃん! 完全無断欠勤!
「もしもし、営業一課の香月です……」
 電話の先には運よくか悪くか、宮下部長代理が出た。
『どうしたんだ!? 連絡ないから心配してたよ』
「いえあの、……昨日、吐き気がして眠れなくて……寝過ごしました……」
『大丈夫か?』
「食あたり……だと思います。刺身を食べたので。とりあえず今日はまだ下痢してますので休みます……もしかしたら明日も休むかもしれません」
『ああ、分かった。伝えておくよ。お大事にな』
「すみません、連絡遅れました……」
 そっと携帯の受話ボタンを押す。
「へえ、刺身で食あたりを?」
 隣から聞こえてきた、いやらしい声の主は枕を背もたれにし、タバコをゆるりとふかしていた。
「私は今日、あなたと一緒にいたいから、仕方なく嘘をついたんです。心が痛い嘘ですが、一緒にいたいから仕方ありません」
「ふっ、とんだ理由だな」
「ほんとだもん。ねーねー。今日ほんとに仕事行くの?」
「行く。2時には出るぞ」
「えー……私休みなのにぃ……。次いつ休み?」
「休みはない」
 堂々と言い切られ、溜息が出る。
「……私、やっぱり仕事辞めようかなあ……だって、生活リズムが違うから全然会えない……」
「仕事を辞めて何をするつもりだ?」
 予想もしない質問に期待していいのかどうか迷いながら、
「……か、家事手伝い?」
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