絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
帰宅してからも、待ちきれなくて何度も時計を確認する。
そしてようやく、午後10時を過ぎる。香月は待ちきれずに30分にはロビーのソファに腰掛けてしまった。
 早ければ15分ほどすれば現れると予想していた巽は30分しても現れず、まさか嘘? というかドタキャン?
しばらく不安に思ったが、その5分後、ようやく彼はエントランスに横付けされたリムジンから、いつも通りばっちりスーツを決めて出て来た。
「悪い。突然で」
 というか、突然以外の方法をこの人は知らない気がするが、それを謝るとは一体どうしたことだろう。
「ううん……」
 いきなり調子が狂う。
巽はそんなこちらに気付いたのかどうなのか、すぐに一枚の封筒から紙を取り出した。
 結婚式のパンフレットでも、婚姻届でもないことはすぐに分かる。
「え……」
 写真。しかも、自分の幼い頃の写真が、こんなにも大きく引き伸ばされている。
「何これ……」
「これ、お前だろ?」
「え……うん。え、何、見せたかったものってこれ?」
「ああ」
 怪訝な表情を隠すことなどもはや不可能であった。
「え、何これ?」
 さすがに、巽を睨み、口を尖がらせてしまう。
「山根……という俺の同志がいてな。もう80も過ぎて、今は癌が進んで自宅療養をしているんだが、もう先が長くない。今日、そこに見舞いに行ったら、この少女を探してほしいと頼まれたんだ」
「え、ってゆーかその前になんでこれ持ってるの!?」
「20年前、県の写真展があったとき、張り出されてたそうだ。それを気に入って、譲ってもらったらしい。それからこの写真を元に探していたが、見つからなかったそうだ」
「え―――、その人、私のことずっと探してたの!?」
「ずっとかどうかは分からんが」
 巽は写真を手にとり、顔を見比べた後、テーブルの上にまた写真を戻した。
「え――――――、やだあ、気持ち悪い」
 香月は言うだけ言うと、どさりとソファに身を投げた。全く下らない話に、何故こんなに巽が真剣になっているのか……ばかばかしい。
「ここからが大事な話しだ。
 山根氏はもう長くない。そこで遺言状を作ったんだが、その現金預金の貰い受け人をその写真の子とし、もし見つからなかった場合は慈善事業に寄付すると、言っている」
「え……それってどのくらいの額なの?」
「5億はあるだろう」
< 179 / 318 >

この作品をシェア

pagetop