絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 すぐに照明を消してやる。
 香月と別れる決心をして、覚悟の上での話し合いだった。だが予想以上に彼女は無口で、まだ多分内に秘めている思いが何かあるのだろうとは思ったが、それが何かは分からなかった。
 香月を隣に、シーツを纏って目を閉じる。今日の疲れもあって、シャワーも浴びてないのに、すぐに眠気が襲う。しかし、5分ほどうとうとしたが寝苦しいと感じてベッドから出た。
 ざっと湯を浴びて、バスタオルで拭きながらすぐに部屋に戻る。すると、照明を灯し、服を着た香月がベッドに腰かけていた。
「……どうした?」
「病院行く」
「具合でも悪いのか?」
「病院行く。私……子供が産めるのにと思うからいけないんだ」
 独特の言い回しに困惑する。
「何だ?」
「子供が……産めるのに……産めないと思うから……」
「産めるのに? 産めないと?」
 真意を探ろうと、裸のままバスタオルを持って、隣に腰掛けた。
「子宮を結べばできないんでしょ、子供。聞いたことある」
「何? それをして何になる」
 自分の表情がいつになく険しいのが分かったが、香月はそれ以上の眼差しでいた。
「子供が……できない体になれば、もう欲しいとは思わない」
「いい加減にしろ。……下らない」
 唐突な発想に、言葉を失くして立ち上がった。
「私の考えは間違ってない」
 はっきりした決意で、こちらを見据えてきたことに驚いた。だが、その瞳は今にも泣きそうに潤んでいる。
「……今日はもう寝ろ」
「私……もし、例え手術してあなたと別れたとしたって。もう子供なんかいらない。だって……きっと、こんなに……私を……、大切にしてくれる人はいないっ!」
 泣きながらも、彼女は続ける。
「私……、前レイプされて……そんな私をあなたはすごく優しく……抱いてくれる。大事にしてくれる。……優しく……してくれる……」
 香月の中でずっと引っかかっていたのは、それだったのかと、ようやく気づく。
「……」
「とき……どき……思い出すの……。忘れられなくて……。でも、あなたは……やっぱり優しく抱いてくれる……。
 私には、あなたしかいないの……」
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