絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 防犯カメラですぐに分かるはず。
 祈るように結果を待つ。
 もし、車が停車していたとしたら、もう一度電話をかけよう。
 ロビーからはすぐに連絡があったが、結果はノー。
『そのようなお車は停車しておりません』
「……じゃあもしかしたらその車じゃないかもしれない。他に高級車みたいなのが停まりませんでしたか?」
『センチュリーなら一台。午前3時15分に一度停車していますが、その20分後にそのまま去っています』
 多分それだ。
「分かりました、ありがとうございます」
 もう一度だけ、携帯をコールする。
 だが巽は出なかった。
 幕引き。
 さっきのが多分、自分と巽の最後の連絡になったのだ。
 深い、深い溜息。……もう寝よう。
 起きたら、もう一度……気持ちを整理しよう。
 一応、枕元に携帯をおいて、音を最大にはしておく。
 だってもし着信を見て、かけ直してくれたら、起きられるでしょ。
 プルルルルルル、プルルルルルル……
 薄暗い空の中、耳元で突然鳴る電子音に心臓がドキリと動き、不快な目覚めとなる。
 だが体はすぐに反応し、素早く携帯を開いた。
 着信名、巽。
 すぐさま受話ボタンを押す。
「もしもし」
 最初の声は掠れてしまう。
『……寝てたのか』
「え、あ、いや……起きようと思ってたとこ」
 辛く電話を切られたはずなのに寝ていた、という図太い女に思われたくなくて、意味のない嘘をつく。
「あの、ごめん、ほんと、昨日、本当に来てない? 車、センチュリーじゃなかった?」
『……秘書に行かせた』
「……そうだったんだ……。ごめんなさい、本当に。ね、今から会える?」
 沈黙が怖くてただ出た言葉。本当に会おうとはあまり思っていない。
『無理だ』
「……そうだね、もう遅いし」
 いいと言われても、確かにちょっと体が動くか微妙ではある。
「明日仕事何時から?」
『休みだ』
「え、明日休み?」
『……ああ』
「え、明日休みならいいじゃん今でも!」
『……俺はもう寝る』
「うんいい。玄関だけ開けといて、顔見て謝りたいから」
< 49 / 318 >

この作品をシェア

pagetop