絡む指 強引な誘い 背には壁 Ⅲ
 佐伯と同じ大学の経済学部に入学し、ミステリー小説研究室というサークルにに所属しながらも、現在はゲームサウンドクリエイターという職業についているということは、身長180以上はあろうかという長身で黒髪をぼさぼさに生やした切れ長の目に似合うクールな性格からは、何も読み取れなかったが。
 電車で一時間後、ディズニーランドには昼前に着いたのでとりあえず一つだけ乗り物に乗って、すぐ食事に入る。風間と来たときよりも、はるかに人が多いのにどんな理由があるのかは分からないが、今日は気兼ねなく楽しめることだけは確かだった。
 3人は10分以上並んで、ようやくハンバーガーを注文すると、大学の構内のように、その辺の花壇の脇に腰掛け、パンをかじり始めた。
 6月というちょうど良い気候でしかも天気の良いこの日に、香月のようなビジネススーツで歩いている者は誰ひとりとしていなかったが、それでも、何も気にならなかった。多分、当時の風間も同じ気分だったに違いない。
「私さあ、結婚したいのよね……」
 香月は今思ったことをそのまま呟いたが、左手にいる吉田に話しかけたのではない。かといって、右手にいる佐伯に話しかけたわけでもなかった。
「相手がいなくて困ってるんですか?」
 佐伯は間髪入れずに聞いてくる。
「うーん……そういうことなのかなあ……」
「あの、真面目に聞くんですけど」
 佐伯の言う真面目は大したことではない。そう思ったので、ジュースを飲み、ポテトをかじろうとしたが、
 「真面目に聞くんですけど」。
 繰り返されたので、口の中の物はをそのまま飲み込み、「はい」と、真ん丸の目を見た。
「西野さん、どう思います?」
「え、西野さん? ……さあ……何で?」
「好きですか、嫌いですか?」
 考えたこともない質問だったが、戸惑いはしなかった。
「そう聞かれたら好きだと思うよ、だってお店変わったって食事とか行くもん」
「で、どうも思わないんですか?」
「どうって何が?」
「だからあ、結婚したいか、したくないか」
「えー? 全然ピンとこないなあ、私と西野さんが結婚するって意味?」
「そう」
「えー? 何? いや、そういえば、西野さんは結婚願望結構ある気はしてたけどね。前もふつに子育てしてたし」
「それはー、だから……、香月先輩のことが好きだからですよ」
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