last memory
うつむいていた顔をあげ、強い瞳でキリストを見つめる。


何らかの覚悟を決めたような目だった。


きれいな金色の髪がさらりと揺れた。


しっかりとした声で、言葉を一つ一つ紡いで行く。


「僕、何もいらない。何も望まないから…だから一つだけ」


少年は大きく深呼吸をすると、言葉を続けた。


「…僕を殺して下さい」


少年は思った。


自分は生まれてきてはいけない存在だったのだと。


神が与えたこの力も、自分と共に消えてしまえばいい。


自分が消えて皆が幸せに生きていける、それなら…と、少年は、顔の前で両手を強く組み「お願いします」と願った。


少年の声が静かな教会に響く。


その時だった。


教会の重い扉が音をたててゆっくりと開いた。


少年はびくりと肩を震わせ、後ろを振り返る。


夜の教会なんかに人が来るはずないと思っていたからだ。


扉を開けた人物はゆっくりと少年に近づいていった。


近づくにつれてはっきりとしてきた顔に、少年はハッと息を飲んだ。


筋の通った鼻、切れ長の瞳には二重の線がくっきり入っている。


その瞳の色は澄んだ銀色で、闇に溶け込む漆黒の髪は肩につくぐらいの長さまであった。


その体躯は少年と30センチ以上も差があるかのように高く、スラッとしていたが無駄の無い筋肉がほどよくついていた。


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