まだ、恋には届かない。
昼食の後片付けをする。
といっても、洗い物は町田がやってくれた。
昼飯の礼だと言って、手際よく町田は洗っていった。

その手つきを見て、どうやら、町田は家では洗い物当番らしいと亜紀は推測した。

町田には、付き合って2年になる彼女がいる。
2つ年下だと聞いたような気がした。

同棲しているとは聞いていないが、町田も一人暮らしだから、半同棲のような感じなのかなと、亜紀はそんなことを考えた。


水切り籠の中の皿を、手に負担かけないようにゆっくりと拭いていく。
来客用にと買い置いた皿を、亜紀がこの部屋で使ったのは、初めてのことだった。


誰かと。
部屋で食事なんて。
何年ぶりだろ。


そんなことを考え出したら、妙に寂しさが募ってきた。

先日。叔母から持ちかけられて見合い話を亜紀は思い出した。


お見合い、かあ。
それもありかな。


こんな怪我をしても、頼れる人すら、亜紀にはいなかった。


一人って、
こういう寂しさにも
耐えなきゃいけなんだよね。


ふと。
腰に回された町田の手を思い出した。
寄りかかった温もりを思い出した。
町田の顔が脳裏に浮かぶ。


頭を振って、亜紀はその顔を頭の中から追い出した。


もう。
人のものは欲しがらない。
あの人は、人のもの。


亜紀はそう自分に言い聞かせた。

けれど。
誰よりも真っ先に、事務所を飛び出して駆け下りてきてくれたあのときの顔だけは。
この先何があっても、亜紀は絶対忘れることないだろうと、そう思った。

信用してくれと、町田は言った。


信用も、信頼も、何もかも。
とうの昔に、私は町田さんに丸ごと差し出してますよ。


胸の中の町田に、亜紀はそう語りかけた。



あなたに何かがあったなら。
きっと、私も飛んでいく。

亜紀は、そう思った。
< 28 / 32 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop