永遠を繋いで
今や見慣れた自分の部屋のものではない天井を、ベッドにだらりと転がりぼうっと見た。規則正しい生活が週間づいてしまったせいか、眠気に瞼を閉じてみても一向に眠れる気配はない。
なんだか落ち着かなくて、枕元に転がっていた大きめのぬいぐるみを抱えるようにして寝返りをうった。いつもこうしてベッドに寄りかかって座る真咲先輩の後ろ姿を眺めているのに、今見えるのはリビングとは対照的な物で溢れかえる賑やかな広い部屋。
鞄やら服やらが床に散らかっているが、そのうちのほとんどが俺の物だということに気付く。週末に疲れてそのまま二人で眠ってしまい、またこんなことがあるかもしれないからと部屋着を用意してくれたのだ。正直汗をかいていて不快だったので用意してくれたのは助かった。欲を言えば、俺が起きてから一緒に買いに出掛けたかったのだが。
ここ数日、休日までも入り浸るようになっていた。まるで同棲しているかのように、朝から夕飯を済ませるまでのほとんどの時間をここで過ごしている。

がちゃり、扉が開く音がして咄嗟に狸寝入りをした。別にそんなことをする必要はないのだが、タイミングを逃してしまいそのままでいることにする。
これも部活が始まれば、あまりできなくなるのだろうか。目を閉じたままぼんやり考えているとベッドが軋んで音をたてた。

「なんか、寂しいなぁ…」

近くに真咲先輩の気配を感じる。聞こえる声は小さいけれど、はっきり聞こえたということは距離が近いのだろう。

彼女も同じことを考えていたのだろうか。同じように寂しいと思ってくれたのだろうか。毎日顔を合わせることに変わりはないのに、寂しいというのは多少大袈裟かもしれないけれど。

物音がしなくなり薄く目を開けると、近くも遠くもない位置に真咲先輩の寝顔があった。今の今まで起きていたのに随分と眠りに落ちるのが早かった。穏やかな寝息だけが部屋に聞こえる。
右手が触れるか触れないかの位置にあることに気付いた。様子をみようと故意に触れることをやめていたのだが、彼女は気付いているだろうか。
その手にそっと自分の左手を重ねる。たかが数日なのに、触れた体温はすごく久しぶりに感じる気がした。

いつか自分から俺を求めてくれるだろうか。小さな温かい手を少しだけ握ると身じろいだ。

「ねぇ、ごめんねって、どういう意味なの」

先程の小さく消え入りそうな声は、確かに俺の耳にそう届いた。
当然だが、その問いかけに返事は返ってこない。そして彼女の言葉はどんな意味を含んでいたのか、分からない。
けれど、

「全部、許すから。早く俺のこと好きになってよ、先輩」

この想いもきっと、まだ彼女には届かない。
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