シンデレラとバカ王子
急いで、キャバクラに戻った。奏姉ちゃんが心配しているはずだ。ケータイも何も置いて行ったから連絡のしようがなかった。

店の裏口まで行くと、奏姉ちゃんがドレスをきたまま待っていた。

「姉ちゃん!」

「灰音!良かった帰って来れたのね。心配したのよ。てごめにされたかもって、あのバカ王子に連れて行かれたらどうしようって。連れて行かれる前に灰音を連れ戻そうって思ってたんだから」

姉ちゃんにギュッと抱きしめられた。姉ちゃんは身体中、冷たくなっていた。何時間、薄いドレスでここにいたんだろう。

「大丈夫だよ。心配かけてゴメンなさい。ちゃんとお客様には夢を見せてきたから」

てごめにされたとは言えなかった。和姦に近いし、美味しいケーキとフルーツをもたらふく食べさせてもらったし。ギブアンドテイクっていうのかな。

「着替えましょ。そして一緒に朝ごはん食べよ」

「うん」

姉ちゃんとご飯は久しぶりだ。嬉しいな。

着替えて外に出ると、チャコールグレーのスーツを着て、四角の眼鏡した着た男が立っていた。

スーツの襟に弁護士バッジが付いている。

姉ちゃんが男の傍にスッと歩いて寄り添った。

「あ、灰音。こちら黒瀬匠さん。話してた私の婚約者」

見た目はなかなかのイケメンなんでしょうけど、あの王子を見てからだとなんか霞む。

この人の良さそうな、でも笑顔がどこか胡散臭さを感じる。この男、ホントに姉ちゃんを幸せに出来るのか?

「確かに灰原灰音さんだ」

名乗ってないのに、名前を呼ばれた。

「誰?気に食わない。こいつホントに姉ちゃんのカレシ?」

黒瀬という男は私を知っている。私の過去も知っている。何が目的だ?あのババアに言われて来たのか?今更、何だっての?

「匠さん、灰音を知ってるの?」


「あぁ、灰音様が小さい頃からね」

くいっと眼鏡を上げる仕種、私を灰音様って呼んだのは、あの頃、一人だけだ。

「あー、黒瀬のおじちゃんのドM息子」

私の家で父親の秘書兼、お手伝いさんのおじちゃんがいて、その人の息子が確か、匠ってやつだった。

勉強は出来る奴だったけど、運動がさっぱりで、何回か近所の川とか、ドブに落ちている。
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