ヴァムピーラ

「昔、母さんを撮ったこともある人だぞ」
「え、お母さんを?」

 話題の中心になっている母は、今台所で料理中だ。機嫌がいいのか鼻歌が聞こえてくる。

「お前も、顔は母さんにそっくりなんだから、その仏頂面はよしなさい」
「いいじゃん、私がどんな顔してたって」

 私はそう言って笑いながら、何気なしに母の後ろ姿を見た。
 金糸のような金の髪に、紫色の瞳を持つ母。それをそっくり受け継いだ私。違うのは、ストレートの母に対し、私の髪は緩いウェーブがかかっているということ。

 そのとき、来訪者を告げるチャイムが鳴った。
 父親が立ち上がる。

「きっと、今話していた人だ。カノン、紹介するな」
「えっ、ちょっと待ってて」
「もう、別にいいのに。父さんは出てるからな」

 私は慌てて立ち上がって、自室においてあったウィッグをかぶって、戻ってきた。
 濃い茶色の肩までのウィッグ。これは私を守ってくれる鎧。
 人は人と違うことを嫌う、普通じゃないと拒絶される、そう言ってこれを買ってくれたのは母だった。
 私は、これをかぶらなきゃ他人と上手く付き合えない。
 きちんと頭を整えて、部屋に戻った。

「あ、こんばんは」
「こんばんは」

 父の隣に立っていたのは、父と同じくらいの年の男の人だった。
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