一般人になるまで
由紀と別れたあと、帰路につく


昔は門限なんてなかった
ただ、いい子ではいようと頑張っていた
それが当たり前と思っていたから、なんの苦でもなかったが


しかし、学校に入るとそうとも割り切れない
他人という比較物がある

小学五年生のとき
カードゲームが男子の中で流行った
もちろん拓人も集めた

帰る暇も惜しんで、みんなでバトルをして遊んだ

五時には帰ってくるのよ

帰りついたのは
五時五分だった

玄関には鍵が掛かっていた
専業主婦の母がずっと家にいたから、鍵を持ち歩く習慣はなかった
チャイムを鳴らしてみた、誰も出なかった
庭に回ってみた、全ての窓に鍵が掛かっていた
玄関で一時間、開けてよと泣いてドアを叩いた
そのあと三時間、泣きながら座りこんで開けてもらえるのを待った

気付くと、床の上にいた
目の前にはいつも通りの母がいた

「何してるの拓人」

くすくす笑っている、
床に寝そべっていては汚いという意味で笑っているのだろう

ああ、さっきのは夢だったのだ
優しい母がたった五分帰りが遅れたぐらいで入れてくれない訳ないのだ
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