一般人になるまで
「ただいま」

玄関の鍵は
あの日以来持たなかった日がない

入った瞬間、グラタンのいい香り

リビングに入ると、テレビの雑音、グラタンをオーブンで焼く匂い
家庭そのものの風景


「おかえり拓人」

母が出迎えてくれる

「ご飯出来るまでにお風呂にでも入ってらっしゃい」

これは、命令だ
従わない、なんて命を捨てるような行為は絶対にダメだ

「うん、分かった」

笑って、お風呂に行く
浴室のドアを開けると、怪我した猫
足が切られていたり
しっぽを切られていたり
こんなにたくさんの猫をどこから見つけてくるのか


ああ、せっかくのグラタンのいい香りが血の異臭にかわる

これはまだ新しい
グラタンより新しい
きっと、三十分前はついていた足やらなんやらが洗面器に浮かんでいる

「お前は喉を潰されたのか、痛いよなぁアレ」

病院通いでやっと治ったのを覚えている

何度入院を繰り返したの覚えてない
看護婦さんに交際を申し込まれるくらい通い続けた気がする

美人だったけど、
にんじんをお花型にくり抜く人はちょっと…
と意味の分からない返事を返したのを覚えている
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