シーソーが揺れてる
大12章

「おいっす良太、これ」
出勤してきた良太を呼び止めた直人は、早速ビニール袋に入った物体を手渡した。
「何ですかこれ」
良太は手の中の物を見る。それを見て直人はにんまりしながら答える。
「アップルパイ。西山の手作りの」
「えー、そうなんですか?」
良太は思わず声を上げた。直後そのことに気づいてしまった自分に恥ずかしさを覚えた。
「おっ、おー」
良太はビニール袋をそっと開いた。そこには確かにこんがりと綺麗に焼き上げられたアップルパイが・・・!
「ん?あれ?」
良太は眉をしかめた。その目はアップルパイの真上に注がれている。
「何どうしたんだ?」
直人も良太の持つビニール袋に目をやる。
「先輩、これ・・・」
良太の右手には、1枚の薄い小さな紙切れが握られていた。
「あっ、それは・・・」
直人は良太の手から視線を反らした。その瞬間、体の奥からじわじわと冷や汗が滲んでくるのを感じた。
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