シーソーが揺れてる
直人はラジオに、春香は読書に集中しているから、ではない。
直人も春香も本当は何か話したいのだけれど、それぞれの中にある感覚を、どう言葉にしたらいいのか分からずにいるのだ。
そうやってどのぐらい立っただろう。
「ねえ」
最初に声を発したのは直人だった。
「ん?」
本から目を上げずに春香は声だけ出した。
「よしもとばななって椎名林檎の親戚か?」
バナナとリンゴ、ね。丁度よしもとばななの「キッチン」を読んでいた春香は、直人の問いに思わずぷっと吹き出してしまった。でも冷ややかな声で言った。
「知らないわよそんなこと。たぶん違うんじゃない?」
「ふーん」
直人の視線が本の表紙を見ていることに春香はその時気がついた。再び沈黙に戻る。
「ねえ、あのさあ」今度は春香の方から口を開いた。
「何?」
「次休みいつ?」
直人はイヤフォンのコードを指に絡ませながら考え込んだ。
「確か来週、日曜日か」
思い出したように直人は答えた。
「来週の日曜日って、大会の日だ」
「大会?」
「うん、合唱のねえ」
春香が言い終えると、直人は両手のひらを静かに併せて見せた。
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