シーソーが揺れてる

翌日。春香は広美と共に例の段ボールたちを宅急便に出しに行った。それらは30分ほどで全て片づいた。
段ボールが無くなった部屋に戻ると、春香は一休みすることなくその手を掃除機に延ばした。
「あんら珍しいじゃなーい」
掃除機の取っ手に手をかける春香に、広美はお姉キャラのような声で話かけた。
「何が?」
「今までは掃除するのめんどくさーいって言ってた人が、自分から掃除機かけるなんて」
「無理言って転がり込んだ部屋だよーっ。出る時ぐらいはちゃんと綺麗にして返さないと」
春香は掃除機から引っ張り出したコードのプラグを壁のコンセントに突き刺した。
「普段からそうしてくれたらもっとありがたいんだけどなあ」
ため息混ざりに広美は言う。広美のその声は照れ隠しであると、掃除機のスイッチを入れた春香は気がついていた。
そんなどことなく寂しいような気持ちに染まろうとしていく部屋の空気をかき消すように、春香は一通り部屋のフロワーに掃除機をかけた。
「ずいぶん広くなったねこの部屋」
春香が掃除機を止めると広美はしんみりとした様子で呟いた。春香も広美と同じことを思っていた。
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