逃げる女
店の片付けを終え着替えてホールへ向かうと、そこには杉田さんの姿しかなくて私に、カウンターへ座るよう促し、キッチンへ入っていく。



そして、お盆に何かを乗せて戻ってきた。



「これ…雑炊?」



『少しでもいいから食べろ。お前今日何も食べてなかったろ。』



トイレでの私の吐瀉物を見て気付いたんだろう。



「いただきます。」



杉田さんの作ってくれた雑炊は美味しくて、熱さが、喉から胃へ落ちていくのがわかる。体の内側から温かくなるのが心地よくて、私は全部平らげてしまった。



食べ終える頃を見計らって出されたホットココア。



杉田さんの分もあって、私の隣に座り無言で飲む。





「店長は?」



『雪、降って来たから他のバイトの奴ら送ってやるってみんな連れて帰ったよ。』



「そうですか。…今日はすみませんでした。」



『気にするな。』


素っ気なく言われて、少し苦笑してしまう。
あまりにも普段通りの接しかたにかえって戸惑ってしまう。


「…何も聞かないんですね。」



杉田さんの動きが一瞬止まった。


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