龍の系譜~龍に愛された少女~
  
 自転車からスーパーの買い物袋を降ろして、玄関のドアに向かう。

「おもっ~!」

 食べ盛り3人分の夕食用だから、とにかく重い。

 2つ目を運ぼうと持ち上げたら急に重さがなくなり、びっくりして振り向いた。

「桜人さん!」

「こんにちは。運ぶの手伝うよ」

「でも~」

「いいから、いいから。僕もご馳走になるんだし」

 桜人はにっこり微笑んだ、静香はこの笑顔に弱い。

「静香ちゃん、買い物にエコバック使ってるんだ。偉いね~」

「だってこっちの方がカサカサ袋より可愛いから…」

 ほめられて静香は少し赤くなった。


 「おじゃましま~す」

 荷物を運び終えた桜人が静香の後から玄関の中に入ってきた。静香はあたふたと客用スリッパを揃えた。

 衛と仲のいい桜人は、テスト勉強やらなんやらとよく天河家に訪ねてくる。今では親戚並みのあつかいだ。

「お茶いれますね」

「お構いなく~」

 飄々とした様子で、桜人は自分からリビングルームに入っていった。

 お構いなくと言われても、自分だけお茶するわけにもいかず…静香は2人分の紅茶を持ってリビングに入った。


 桜人は窓際にたたずみ、庭の新緑を眺めていた。

「兄さんももうすぐ帰ってくると思いますから、どうぞ」

 静香は応接テーブルに紅茶を並べながら、桜人にソファをすすめた。

「ありがとう」

 静香は桜人の向かいに座った。

「すっかり春だよねぇ」

 再び窓の外に目をやりながら、桜人がつぶやいた。

 普段、学校ではコンタクトレンズ派の桜人だが、私服の時には縁なし眼鏡をかけている。

 そのためか学校で会うのとはずいぶん印象が違っていて、茶色がかった瞳が優しげな雰囲気を醸し出していた。

 「実はねぇ、今日は静香ちゃんにもお願いがあるんだ」
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