執着王子と聖なる姫
コンプレックスなどと言うものは、一生付き纏うものだ。それを認めてくれた父に依存する母の気持ちは、俺にもよくわかる。

「でもさ、やっぱどうしても寂しかったみたい。俺は仕事で殆ど家に居ないし、俺そっくりの君は大きくなって家を空けることも多くなったし…ね」
「え、帰国の原因って俺?」
「いや、それだけじゃないけど。王子と姫、それからケイ坊は、麻理子にとって俺以外で出来た初めての友達だったから。恋しかったんじゃないかな」
「まぁ…だろうな」
「あの通り意地っ張りだから、ハッキリは言わないけど」

母の意地の張り具合は、この父でも頭を悩ませるほどで。おかげで女を上手くあしらう術は覚えたけれど、やはりあの人の言動には俺も相当頭を悩ませた。

「ごめんね?寂しい思いさせて」
「いや…別に」

改めてそう言われると、何だか気恥ずかしい。基より、妹はどうか知らないけれど、俺自身は両親を責めるつもりなど微塵も無い。感謝こそすれ、だ。

「おかげでこうやってセナとも出逢えたし、俺は良かったと思ってるけど」
「そう言ってくれると助かるよ。ありがとう」
「いや、こっちこそ…ありがとう」

照れくさい。けれど、父とこうして話すのは好きだ。
やはり男同士で分かり合えるのは良い。家族は唯一無二の存在なのだから。

「セナちゃん、大事にしてやんなよ?」
「言われなくても」
「ホント、昔の王子見てるみたいな気分だな。王子と姫の時、俺とケイ坊は苦労させられたからね」
「俺、ハルさんと似てるって?」
「何でだろうね。俺の息子なのに」
「さぁな」

本当は母とハルさんの関係も訊きたいところなのだけれど、この空気に水を差すのはナンセンスだ。せっかく穏やかに語り合っているというのに。

それはまた別の機会でも構わない。いや、このまま気付かないフリを通してしまっても良い。
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