執着王子と聖なる姫
「起きろ、セナ。食うぞ」


今日も今日とて愛しい恋人の聖奈を腕に抱き、愛斗は乱暴な台詞を吐いた。それに驚いてパチリと双眸を開いた聖奈の唇を奪い、愛斗はニヤリと口角を上げる。

「good morning」
「おはようございます」
「シャワー浴びるぞ」
「はい」

少々乱暴な物言いだけれど、決して乱暴に扱っているわけではない。乱暴どころか、言葉とは裏腹に愛斗は聖奈をとても愛しく想っていて。それがわかっているからこそ、聖奈は何も反論せずに愛斗に従っていた。

「おはよ、早いね」
「good morning」
「おはようございます、メーシー」

昨日は随分遅くまで起きていたはずなのに…と、相変わらず監視カメラでも付けていそうなほどに何でも知っているメーシーは思う。


夏休みと同じように、冬休み、春休みと娘同士を交換して過ごした。主に面白がってやっていたのは母親同士なのだけれど、当人達もそれを喜んで受け入れたので、父親二人も特に咎めはしなかった。

「シャワー浴びる」
「そう。あ、セナちゃん。ちょっとこっち来て」
「どうしましたか?メーシー」

恋人の父親であるメーシーに手招きをされ、聖奈は素直に階段を下りた。それにドキリとしたのは、後を追う愛斗だ。

「あちゃー。こりゃ酷い。痛いんじゃない?」
「大丈夫です」
「これじゃ心配されるのも無理無いよ」

聖奈の二の腕にくっきりと残った歯型を指先でなぞりながら、メーシーは顔を顰める。それに軽く表情を歪め、愛斗は強引に聖奈の腕を引いた。

「don't touch」
「おっと、ごめん」

スッと手を引くメーシーをジトリと見つめながら、愛斗は聖奈の背を軽く押してその場から離す。

「先行ってろ」
「はい」

素直に頷いてバスルームへ向かう聖奈を横目で見送りながら、メーシーは口元に手を当ててうーんと唸った。

「マナ」
「ん?」
「女の子の体に傷をつけるのは感心しないな」
「気をつける」

見つける度に注意するも、愛斗の噛み癖は一向に直る気配がない。

心配した晴人…ではなく恵介が「そんなんするなら別れさす!」と騒いでいたことを思い出し、メーシーの口から思わずため息が洩れた。

「あの家には、煩い父親が二人もいるんだからな」
「わかってる」
「大丈夫。セナちゃんはマナのことしか見てないよ」

くしゃりと頭を撫でながらそう諭すと、メーシーは愛しい我が子を「行っておいで」とバスルームへ促した。
< 120 / 227 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop