執着王子と聖なる姫

 再開は恋の始まり

有名ヘアメイクアップアーティストを父に、元トップモデルを母に持つ俺達兄妹は、物心ついた頃からNYで暮らしてきた。

仕事で忙しい父に、モデルを引退して主婦をしている母はいたく不満げだったけれど、経済的にはかなり裕福な家庭ですくすくと育った。

俺にも、二つ下の妹にも日本で生活していた頃の記憶は無く、当たり前にずっとここで暮らすのだと思っていた。

この街が俺達の故郷だ、と。そう、当たり前に。

自分の母親がとんでもない女だということを、この時の俺達は失念していたのだ。


「メーシー!日本へ帰るわよ!すぐ!」
「はぃ?」


帰宅早々投げつけられた母の怒声にも似た大声に、父は素っ頓狂な声を上げていた。そりゃそうだろう。何を突然言い出すんだか。かれこれもう18年近く付き合ってきているけれど、未だにこの人の思考は俺の理解の範疇を軽く超える。

そんなことを思いながら、両手を腰に当てて「仁王立ち」とやらをする女王様の背中をぼんやりと眺めていた。

「どうしたのさ、急に」
「いいから日本へ帰るの!」
「何日くらい?すぐには無理だよ?仕事の都合つけなきゃなんないし」
「そうじゃなくて!」
「ん?」
「日本へ引っ越すのよ!さっさと事務所で手続きしてきて!」
「へっ!?ちょ…ちょっと待って、マリー」

女王様のワガママには慣れっこなはずの父も、さすがに目を見開いて狼狽えている。すると、すぐさまOKの返事が出なかったことでご立腹の女王様が、何を思ったのかわんわんと声を上げて泣き始めるではないか。

48歳の女…しかも自分の母親のそれは、さすがに痛いものを感じる。キャッキャとはしゃいでTVに夢中の妹を連れて部屋へ戻っても、暫くの間その泣き声は聞こえていた。
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