執着王子と聖なる姫
「ブスになんぞ」
「わかってます」
「だったらんな顔すんな。で?メーシーとレベッカがどうしたんですか?」

ここでやり合っても仕方がないとばかりに話を戻す愛斗に、「そうそう」と手を叩いて志保は話を続けた。

「あの二人ね、あっちで仕事してた頃に一度会ってるんだって」
「あっちって…NY?」
「会ったのはLAだって言ってたけど、ヒマワリちゃんもモデルだったんだね」
「…初めて聞きました」

メーシーへの想いを打ち明けられた時に一通りの話を聞いていたつもりの愛斗は、自分の知らない事実が出てきたことで急激に不機嫌になる。それはもう、冷静を装っているつもりでも表情に出てしまっていて。

普段ならばとことんまで突っ込む聖奈なのだけれど、険しい愛斗の表情がそれを許さなかった。

けれど、一言だけ、たった一言だけ問い掛ける。否定してほしい一心で。

「マナは…レベッカが好きなんですか?」
「何度も同じこと言わせんな。レベッカは友達だっつってんだろ。んでもって仕事上のパートナーだ。それ以上でもそれ以下でもない」
「そうですね。ごめんなさい」

安心して素直に謝る聖奈に、志保はうぅんと唸った。

傍目にはどう映っていたかわからない。けれど、自分が見る限りでは「麻理子」という女の子はとても素直で、純粋で。少し不器用なところはあるけれど、ただただ一途に明治のことを想っているような女の子だった。

そして、再び思考を引き戻して何度か小さく頷く。

「やっぱ似るのね、親子って」

そんな志保の言葉に、今度は聖奈が目を丸くする。

「マナと…メーシーがですか?」
「そうよ。アキちゃんと愛斗君は、見た目だけじゃなくて中身までそっくりなんだから」
「お言葉ですが…メーシーは誰もが認めるフェミニストですよ?」
「騙されてるのよ、聖奈ちゃん。アキちゃん、ホントは愛斗君よりずっと俺様なんなだから。幼なじみの私が言うんだから間違い無いわ」
「へぇ…意外です」
「でしょ?でも、これは秘密よ?喋ったのがバレたら、私がアキちゃんに叱られちゃうから」
「わかりました。秘密にします」

秘密を手にした聖奈は、どこか嬉しそうで。
そんな聖奈を横目に見ながら、愛斗は「さすが志保さん…」と小さく呟いた。

「え?何ですか?」
「お前は素直で可愛い女だっつったの」
「嘘です」
「ホントだよ。ちーちゃんそっくりだね、お前は」

大人達が愛して止まない千彩。勿論、愛斗も幼い頃から千彩が大好きである。

「いい女だよ、ホント」

愛おしそうに頭を撫でる愛斗に、聖奈はそれ以上何も言わずに頬を赤らめた。
そんな聖奈を見ながら、志保は「ふふっ」とメーシーによく似た笑い声を洩らす。
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