甘い誓いのくちづけを
相模さんにお礼を言ってから彼と別れ、目の前の大通りでタクシーを拾った。


車なら20分も掛からない距離も、電車と徒歩だとそれ以上の時間を要してしまう。


今はその僅かな時間すら無駄だと感じて飛び乗ったタクシーの運転手は、とても愛想のいい年配の男性だった。


ただ、せっかく話し掛けてくれる彼との会話には、ちっとも集中出来なくて…


「すみません、着いたら起こして下さい」


申し訳なく思いながらもそう告げると、「気が利かなくてすみません」と苦笑が返された。


微笑みを浮かべて首を横に振った後で、窓に寄り掛かるようにして瞼を閉じる。


その途端、車内は静まり返った。


寝た振りをしたあたしの頭の中は、理人さんの事でいっぱいだった――…。


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