甘い誓いのくちづけを
「時間、大丈夫か?」


それから程なくして文博が腕時計に視線を落とし、あたしは目を小さく見開いた。


「……それ、使ってくれてるの?」


「え?……これの事か?」


怪訝そうな声に頷いて、再び確認するように腕時計を見た。


それは間違いなく、文博と付き合って初めての彼の誕生日にあたしがプレゼントした物。


「あの日は違う物を着けてたでしょ……?」


腕時計にもう一度視線を遣った文博は、首を傾げそうになった後でハッとしたような表情を見せた。


「確か、あの日の少し前から調子が悪くて、修理に出してたんだよ」


「そうだったんだ……」


あの時のあたし達をすれ違わせてしまった原因の一つは、蓋を開けてみればあまりにも些細な事だった。


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