太陽には届かない

拒絶

その日の夜、水族館でのデートと、高級フレンチでのカクテルに少し酔った陽菜は、ホテルのベッドに横たわり、鼻歌を歌っていた。

泰之はそんな陽菜を可笑しそうに見ながら、スーツを脱いでいる。

明日の朝までにクリーニングをしてもらうつもりらしく、クローゼットの中のランドリーバックにスーツを一式入れ、ガウンを羽織ると、それをドアの外に出した。


『泰之~、明日仕事なの?』


酔って甘えたような声を出す陽菜の横に腰掛けると、泰之は陽菜のおでこに手を置き、


『明日は日曜日だから、ラインテストがあるんだ。朝8時には出るよ。陽菜はゆっくり寝てていいから。』


と諭した。


『じゃあ、明日の朝起きたら、泰之は陽菜の傍にいないの?』


酒のせいだろうか、妙にセンチメンタルな気分になり、陽菜は思わず涙ぐむ。


『うーん、そうなるけど、仕方ないよ。ごめんな。』


泰之のその言葉に、陽菜は思わず、本気で泣いてしまう。

普段は絶対泣かない。お酒が入っても、それは同じ事だった。何故今日に限って…。

陽菜はそんな自分に戸惑っていた。

泰之もビックリした顔になり、急に焦る。


『ごめんて。でもな、陽菜のためにも早く一人前になりたくて頑張ってるんだ。それは分かってくれる?』


泣きじゃくりながら頷く陽菜の涙をぬぐい、泰之は優しく言った。


『陽菜がどうしても、こっちに来る事に抵抗あるなら、それは仕方ないけど。こうやって泣かれたら、オレも余計に寂しくなるよ。』


泰之の言葉に、また、涙が溢れる。

陽菜は自分勝手な自分がつくづく嫌いになった。

それなのに、こんなに優しい泰之の何が気に入らないのだろう。なぜ結婚をためらうのだろう。

どんなに考えても答えが出ない自分に苛立ち、また涙が出てくる。


『泰之ぃ~、ごめんね…ごめんね…。陽菜…が…泣いたりし…て…困るよね…。』


陽菜はベッドから起き上がり、泰之に抱きつく。

泰之は陽菜を優しく包むと、よしよし…と頭を3回たたき、ぎゅっと抱きしめた。
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