触れないキス
その頃のあたしは、夢なんてあまり真剣に考えたことはなかったけれど、

「……雑貨屋さんになりたい、かな」

と、なんとなく思い浮かんだことを言ってみた。


「雑貨屋さん?」

「そう! お母さんとよく行くカワイイお店があってね、ずっとそこにいれたらいいな〜って思うの。だから!」


白を基調とした、オシャレで可愛い生活雑貨を売っていたお店。

あの空間が私は大好きだったから。


今思い返すと、やっぱり子供らしい安易な理由だなと思うけれど。

ニコッと笑う私に、柚くんも柔らかく微笑んで、


「可愛い瑛菜ちゃんにぴったりの夢だね」


なんて、こっちが照れるようなセリフをさらりと言ったんだ。


柚くんの天使のような笑顔がまた素敵で、私を更にドキドキさせた。

恥ずかしくて逸らした目線を夕日に向けて、赤らめた顔をカムフラージュさせる。


「ゆ、柚くんは?」


目を逸らしたまま平然を装って聞いてみると、柚くんもまっすぐ前を見てこう言った。


「僕は……絵を描く仕事をしたいな」


柚くんは絵を描くのも上手だった。

時には風景を、時には私や病院の先生の顔をデフォルメして描いてくれたり。

才能あるなぁなんて、子供ながらに思ったっけ。

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