触れないキス
告白してもないのにフラれるのって、結構辛いものなんだ。

柚くんには告白出来ないままだったから、そらには気持ちを伝えたかったのに。


最初のうちは、そらと一緒にいると、どうしても柚くんのことを考えてしまう自分がいた。

柚くんとも一緒に外を歩きたかったな、とか

今頃柚くんも絵が上手くなっているのかな、って。


柚くんが今でも特別な人であることに変わりはない。

だけど、そらのこともちゃんと好きだと、自信を持って言える。

もっと彼のことを知って、近付いて……愛されたなら、どれだけ幸せだっただろう。


近付いたように思えた距離は、呆気なくまた離れてしまった。

そらと知り合ったあの頃よりも、さらに遠くに。

……ううん、縮まったと思っていたけど、ただ私が都合良く考えていただけだったのかもしれない。


「っ……そら……」


悲しくて、辛くて、痛い。

でも、あんなふうに言われても、そらに会わなければよかったとは思わないから、恋って不思議だ。


美術室で過ごした二人だけの時間は、私にとって宝物みたいなもの。

あのひと時がなければ良かったとは、決して思わない──。


そらの柔らかな笑みを思い返しながら、私はとめどなく涙を流した。




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