触れないキス
「瑛菜っ!?」


突然明るい声が闇を切り裂くように響き渡り、私はビクッと肩をすくめて声のする方を振り返った。


「凛……!」


開きっぱなしだったドアから凛が入ってきて、その後ろから桜太くんも顔を覗かせる。

私は一気に現実に引き戻され、全身から力が抜けるのが分かった。

凛は安堵のため息と笑みをこぼしながら、こちらに近付く。


「探したんだよ、瑛菜~! 花火一緒に見ようって言ったじゃん」

「あ、ごめん……」

「こんな真っ暗なとこで何やってたの? しかも一人で」


──え?


「ひ、とり……?」


ゆっくり振り返ると、今まですぐ傍にいたはずのそらの姿はなく……

月明かりが静かに床を照らし出していた。


「そ、ら……?」


──いない……

辺りを見回しても、どこにも……

そらが、いない。

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