深海の眠り姫 -no sleeping beauty-





私がそう口にすると、一瞬きょとんとした彼だったけどすぐににっこりと笑う。



「いつそう言ってくるのか、待ってた」


「…待たせてごめんなさい。な………直人、さん」


やっとの思いでそう呼ぶと、直人さんはまた唇を重ねて私を貪った。




―――私たち以外いない役員室。
聞こえるのはお互いの吐息と、舌が絡まり合って奏でる水音だけ。


とろけそうなほどに甘い唇の柔らかさに私はもう陥落寸前で、ただ直人さんの舌の動きに合わせて舌を絡めていた。


飲み干せなかった唾液が口の端から流れていくのもほったらかしでキスを続ける。
ぴったり隙間なく触れ合っている口で息を吸うのが難しくなって、緩やかに彼の肩を叩くことでようやく解放された。


すると、直人さんは流れた唾液の跡に舌を這わせて舐めとってくれる。





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