深海の眠り姫 -no sleeping beauty-





―――不思議とその日一日は、寝不足にも関わらず思った以上に仕事が早く終わった。
こんなこともあるんだ、とどこかで安心していると時刻は定時。さっさと帰ろうと私が経理部をあとにしたときだった。



「………!?」


誰かに腕を掴まれて、廊下の隅に連れて行かれる。
そのまま近くのトイレに引きずり込まれ、背中を強く押されて私は派手に転んでしまった。



「―――鶴岡さん、だっけ?」


次の瞬間、頭上から冷たい声がして。
私が顔を上げるとそこには今朝芦谷さんの周りを囲んでいた女の人たちが揃っていて。



「ねぇ、黙ってないで返事しなよ」


そのうちの一人が私の目の前にしゃがみこむと、あのときと同じ冷たいまなざしで私をにらみつけてくる。





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