未恋 ~東京卒業物語~
第1章 「博多少女」
雪は夜明け前にはやんでいた。

もう春だと思っていた。

だから、思い出したように降り積もった昨夜からの雪が、あたしには嬉しくてしかたがなかった。


「行ってきまァ~す♪」


いつもより早い時間に家を出たあたしは学校ではなく、隣りンちに向かった。

あたしンち――つまり春日家と牟田家はあたしが生まれる前からのお隣さん同士。


「ピンポン!ピンポン!ピンポン!」


あたしが壊れそうなくらいピンポンを連打していると、玄関のドアがゆっくりと開いた。

「ふぁあ~…なんね、弥生ちゃん、せからしかねぇ…」

ジャージ姿の男の人が大きなあくびをしながら現れた。あたしンちのお隣さん――“マサ兄ぃ”こと、牟田 大(むたまさる)だ。

あたしより5コ上で、今は市役所の市民課に勤めている。


一人っ子のあたしのとって、マサ兄ぃはホントのアニキみたいな存在で、小さい頃から…、

「マサ兄ちゃん、マサ兄ちゃん!」
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