あなただけを愛したい
はっきりとはわからないけれど、あのシルエットは航にしか見えない。


気付いたら、あたしの足は走り出していた。



「柑那っ!」


「航!」



もう少しで手が届くという寸でのところで、



「ひゃっ!」



砂に足をとられて……


こ、ころぶっ!



「柑那っ」



その瞬間、伸びてきた腕に……



「あっ、ぶねー」



体を支えられて……


そのまま、包み込むように抱き締められた。


あたしの耳には、ずっと波の音しか入ってきていなかったのに、今はどきどきと早鐘を鳴らすあたしの鼓動を、うるさいほどに身体中で感じる。


それに……


目の前の大きな胸からも、あたしのものと変わらないくらいの、激しい音が耳に届く。


同じ想いでいてくれてるのかな?


そうだと嬉しいのに。
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