愛★ヴォイス
と後悔の吐息をついたその時だった。



ふと視界の端に映った一瞬の赤い光に心奪われた。


見ると、それは黒のレザーブレスに施されたシルバーの台座で輝く紅玉だった。



その時、今日何十回目かになるであろう、試着室から桐原さんが出てきた。


赤を差し色に使いたいという桐原さんの意向を受けて、翔くんが衣装の基調に選んだのは黒だった。


ファッションに関してはド素人の桐原さんなので、もっとも無難な色の組み合わせで、ヴァリエーションを増やす方向にしたのだ。


とは言いながらも、そこは翔くんで、微妙にグラデーションをつけたり、同じ黒でも素材を変えるなどして、印象に幅のあるパターンを次々に見いだしていた。


先ほどまで端々にダークレッドのラインをあしらった黒シャツに千鳥格子のネクタイを合わせていた桐原さんだったが、今は打って変わってVネックの黒ニットの袖からワイン色の長Tシャツの裾をちらりと見せている。



改めて手元のレザーブレスに目を落とした。


シンプルでありながら、美しくカットされた紅玉と彫り込まれた台座が、黒のレザーに映えている。


私の頭の中で、今日の衣装合わせのコンセプトと、このレザーブレスがぴたりと一致した。



私は勢いに任せて、そのレザーブレスをカウンターへ持ち込んだ。
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