ユビキリ。

橋は、車が引っ切りなしに走っていた。

今も昔も変わらない。

速度を上げた車が走って来て、私は足を止めた。



息が止まった。



もちろん、
その車は欄干に突っ込んだりしないで走り去ったのだけれど。


「真奈。」

母に呼ばれて、
私は顔を上げた。

欄干は綺麗に直っている。

けれど、
母はその場所を選んで花束を置いた。

母がしゃがみ込んで手を合わせた。


私はその場から動けなかった。


いなくなったのは翔だけじゃない。

母もまた、
親友を失っているんだ。

失った時期が、
子供だったか大人になってからかの差だ。

母は上手に乗り越えて、
こうしてここに花束を供えに来る。



私は、
翔が死んだなんて受け入れたくもない。



「翔くん、まだこの川の何処かにいるのかしらね。」

母は言った。

私は煙草を揉み消すと、
煙を吐き出した。


「いないよ。翔は。」


そう。
翔はいない。



あの車には乗ってなかった。


「ずっと側にいるって約束したのに、約束やぶったから。針千本飲まされてるのよ。」


閻魔様にさらわれたんだ。
きっと。


早く、返してほしい。


いつまでも、翔を独り占めはズルイ。


「そう。そうね。」


母は涙ぐんでそう言った後、

私の体を抱きしめた。





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