蜜色トライアングル【完】



脇から飛んできた女性の声に、二人は会話を止めて振り返った。

時代劇用の和服を着た美しい女性が、しとやかな足取りで二人の方へと歩いてくる。


小野寺馨。30歳。

この映画で礼司の恋人役を務める、モデル出身の中堅女優だ。

後ろでまとめた艶やかな黒髪に、ほっそりとしたうなじ。

『お嫁さんにしたい女優No.5』にここ数年常連の美人女優だ。

彼女は数年前に谷崎潤一郎原作の『卍』という映画に出たことで一躍有名となった。

どんな映画なのか? と凛花に聞いたところ、凛花はなぜかブルッと体を震わせた。


『あー……、あれは女友達と見に行く映画じゃないわよ』

『えっ、そうなの?』

『あれならギガモスラでも見に行った方がまだ健全ね。あはは~』


これ以上聞くなオーラが全身から出ていたため、木葉はそれ以上凛花には聞けなかったのだが……。

木葉の視線の先で、馨は鮮やかな朱色の唇に笑みを乗せた。


「あなた、冬青さんの妹さんね? ……ダメよ、こんな悪いオトコに引っかかっちゃ」

「えっと、あの……」

「まぁ私が心配しなくても、無礼を働こうものなら冬青さんが剣の錆にしてくれるでしょうけど?」

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